キューバを知る会・大阪

キューバの魅力を紹介します

フィデル・カストロ前議長の発言が9月10日の新聞に載りました。それらの真意について、「キューバを知る会・大阪」の会員から投稿がありました。ご参考になさってください。


フィデル・カストロ前議長「キューバの経済モデル 機能せず」の意図的なデマゴギー宣伝について
About The Intentional Demagogie, Fidel Castro "The Cuban Model Doesn't Work"

 フィデル・カストロ前議長が「キューバの(経済)モデルはもはや我が国においてさえ機能していない」と述べた--この発言は、9月初めキューバの首都ハバナで米誌「アトランティック」の記者ジェフェリー・ゴールドバーグ氏によるインタビューの中でなされたといいます。この記事は同誌のブログに掲載され、一瞬にして世界中を駆けめぐりました。日本では9月10日(金)の産経新聞、読売新聞などで報じられました。私はこの情報をキャッチし、おかしいなあと思い、情報を収集しました。案の定、これは完全な誤報、というより意図的なデマゴギー宣伝であることがフィデル前議長自身の指摘によって明らかにされました。
 これまで米欧日の大手メディアは、キューバ経済は崩壊するという報道を何十回、何百回とやってきました。政治に対するメディアの世論操作的な影響が増す中、私は、そのデタラメやウソを見抜く力を付けなければならないと思います。

 ことの経緯:米誌とフィデルとのインタビューは何のために行われたのか

 実は、この記者を招待しインタビューをセットしたのはフィデル自身でした。しかもこの記者は、頑強な親イスラエルのタカ派です。なぜ今、フィデルは親イスラエルのゴリゴリを、現在のネタニヤフ政権に近い人物を招いたのでしょうか?
 この夏を通じて、フィデルが強い関心をもって警告してきたのは、イランに対するイスラエルの暴発と核攻撃の危険、中東での核戦争の危険性です。米国とオバマ政権によるイラン制裁のエスカレーションを批判すると同時に、イスラエルが暴発する危険性、イスラエルとイランとの間で挑発行為がエスカレートする危険性に注意を喚起してきました。そしてゴールドバーグ記者は、主にイスラエル政府内の「内部情報」について多く記事を書いていました。
 この記者を招待しインタビューに応じたカストロ氏の意図は明白です。インタビューの中では、イラン側にも、ホロコーストの否定や反ユダヤ主義の独特の歴史について批判することを忘れませんでした。しかしおそらくは、イスラエル現政権と親密に通じているであろうゴールドバーグ記者を招待することで、ネタニヤフ政権による攻撃の危険がどの程度切迫しているのかを探ろうとしたのでしょう。そして何らかの形で、このエスカレーションにストップをかけようとしたことは容易に想像できます。
 併せてフィデルは、インタビューの中で、1962年のキューバ危機の下で、米国がキューバを侵略した場合は米国へ核攻撃をするよう、当時のソ連のフルシチョフ首相に書簡を送ったことを明らかにした上で、これを「結果的には全く価値のないことだった」と反省している、とも述べています。この発言も、核戦争や核報復の危険性と無意味さをはっきりと述べたもので、上記のイランへの攻撃がもたらす核戦争の危険性への警告なのです。
 話題になっているフィデル前議長の発言なるものは、そういう本筋の真剣な努力からはずれたところで、別な関心から大きく話題にされたものであるということを、まずは知る必要があります。

 真剣なやりとりの後の会話をねじ曲げて世界中に発信 真意は全く正反対

 話題になっている発言というのは、イランと中東に関する3時間に及ぶやりとりの後の、家族も含む昼食時の会話の中のものです。そこでゴールドバーグ記者は、「キューバのモデルは今でも輸出する価値のあるものだと信じていますか」とたずねたのです。それについては、「アトランティック」の当該記事「Fidel : 'Cuban Model Doesn't Even Work For Us Anymore' (By Jeffrey Goldberg)」において、ゴールドバーグ記者自身が書いています。
 Even more striking was something he said at lunch on the day of our first meeting. We were seated around a smallish table; Castro, his wife, Dalia, his son, Antonio; ……
 …… during the generally lighthearted conversation (we had just spent three hours talking about Iran and the Middle East), I asked him if he believed the Cuban model was still worth exporting.
 それに対して、フィデルは、「キューバモデルはもはや我々にとって機能さえしていません。The Cuban model doesn't even work for us anymore.」と答えたというのです。それをゴールドバーグ記者は、同伴した通訳の意見も聞いた上で自己流に解釈して9月8日に同誌のブログで報じました。それに世界の大手メディアが飛びつき、産経新聞や読売新聞も飛びついたのです。

 9月10日(金)、フィデルは、ハバナ大学での自著の出版発表に際して、自分の言葉が誤って解釈され(misinterpreted)伝えられていることを指摘しました。
① まず「キューバのモデルは今でも輸出する価値のあるものだと信じていますか」という記者の質問には「キューバが革命を輸出してきたという理論が暗示されている」が、それはこっけいなことであること。
② 気楽な会話で「特別な警戒心や懸念なしに」(with no bitterness or concern)述べたものだが、自分が述べたのは記者らの解釈とは全く正反対であり、キューバのような社会主義国を除いて、資本主義体制こそが今現在、米国にとっても世界にとっても機能していないということ、危機のたびごとにいっそう深刻になっていること(the capitalist system, which is leading the world from crisis to crisis, no longer works for either the United States or the world, let alone a socialist country like Cuba.)。

 問題の発言がおこなわれた具体的な状況とフィデル自身の説明からすれば、真剣なやりとりの後の気楽な食事中の雑談で、「キューバモデルは今でも輸出すべきものと考えていますか」と問われて、「いやいや、そんなことは考えてませんよ。キューバだってなかなかうまくいってなくて大変なんだから」ぐらいのやりとりだったと考えられます。目下、キューバ経済は、米国による長年の経済封鎖や先のリーマンショック後の世界恐慌の打撃を受けて非常に深刻な困難を抱えていることは確かであり、社会主義経済の再建に向かって全人民をあげて奮闘していることは自明のことだからです。
 ゴールドバーグ記者や世界中の大手メディアは、キューバ社会主義崩壊の願望に引きつけてフィデルの会話をねじ曲げて勝手に解釈し配信したものと思われます。それを、全世界のメディアが、肝心のイスラエルによる暴発と核戦争の危険性という重大問題そっちのけで、大騒ぎしたというのが真相のようです。